「子供ってこんなに簡単に眠りに落ちるのか」
「お昼寝は比較的こんな感じですね。夜は逆に眠れなくてぐずったりもしますよ。腕がぱんぱんになるまで、ひたすら抱っこです」
「そんな大変な思いをしながら、沙綾はずっとひとりで育てているのか」

湊人が眠ったからか、急に昼食前の話題に戻り、ハッとして気を引き締めた。

「……なぜ今さら探したのかと、君は聞いたな」

拓海の眼差しに影が差す。耳に届く声音がグッと低くなり、沙綾は小さく身震いをした。

「契約結婚の期限はドイツに赴任した日から三年、今年の七月十日までだ」
「それは……」
「この子の父親はいないといったが、恋人は?」
「いっいません、そんな人」

ぶんぶんと首を横に振る。

「ならば問題ないな」
「問題ない、って?」
「契約期間終了まであと三ヶ月ある。少なくとも、それまで君は俺の妻だ」

沙綾は目を丸くして拓海を見る。

昨日も去り際に同じセリフを言われたが、意味がわからない。

そもそも契約妻が必要だったのは、赴任先でパートナー同伴のレセプションに出席する機会が多いからという理由で、拓海自身が『こっちにいる間だけの関係』だと、誰かとの電話でハッキリ言っているのを聞いた。