神妙に聞いていたと思ったら、すぐに両手を上げてアピールする湊人を見て、拓海がフッと微笑みを零した。
「そうだな、お腹すいたな」
「たくみ、しゅいた?」
「あぁ、ぺこぺこだ」
「きゃはは、ぺこぺこー」
なにが可笑しいのか、湊人はいつの間にか拓海の膝に乗り、キャッキャとはしゃいでいる。
テンションの上がった湊人は、もはやなにをしゃべっているのかわからないような謎の言葉で拓海に攻撃を仕掛け、「みんにゃのやるき、かえちてもらう!」とフラッシュライターの決めゼリフまで披露していた。
笑い合う親子の姿を見て、沙綾は苦しくなって俯く。
本来なら、この光景が毎日当たり前に繰り広げられるはずだった。湊人からその機会を奪ったのは、間違いなく母親である自分なのだ。
それに拓海にとっても、自分の血を分けた息子がこの世に生まれている事実を、この先一生知らずに過ごさせてしまうのだと思うと、胸が締め付けられるように痛い。
「まーま」
「沙綾? どうした?」
ふたりに呼ばれ、なんとか表情を取り繕って顔を上げると、湊人を拓海の膝から引き離した。これ以上、彼に懐かれては困る。
「いえ。なんでもないです。それよりも、本題だけ伺ったら私達はお暇します。さっきなにか言いかけてましたよね。すみません、湊人が邪魔してしまって」
「まずは昼飯にしよう。湊人くんもお腹が空いたそうだし。なにか取ろうか」
「そんな、私はここに長居するつもりは」
「湊人くん。お昼ごはんはなにを食べようか」



