「昨日答えをもらえなかったからもう一度聞く。子供の父親は一体なにをしているんだ」
「なに、とは……」
「気付いているだろうが、君のことを調べた。あのアパートに引っ越して以降、男が出入りしたという報告はあがっていない」
当然だろう。引っ越す以前から、沙綾には自宅に上げるような関係の男性はいない。
あんなにも傷ついて泣いたにも関わらず、拓海を忘れられなかった。
(父親はあなただと言ったら、拓海さんはどうするんだろう)
湊人にちらりと視線を向けると、「てやー!」と気合いの入った声を上げて、武器でくまのぬいぐるみをやっつけているところだった。
拓海が沙綾の周囲を調べていた理由がわからない限り、決して迂闊なことは言えない。
あの可愛い宝物を奪われるわけにはいかないのだ。
「父親は……いません」
「いない? 別れたのか? だとしても、養育費などの義務は」
「彼は、あの子の存在を知らないので」
嘘はついていない。
湊人の妊娠を知った時には“赤の他人”になっていたし、今も拓海は自分に息子がいるとは微塵も思っていないのだから。
沙綾の言葉を聞き、拓海は「なぜ、そんな男と……」と不快そうに顔を顰めた。



