怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「俺に、他人が入ったところで暮らせと? あそこはとっくに引き払った」

低い声で咎められ、沙綾はビクッと身体を跳ねさせる。

(怒ってる……。私が住んでいたところに住み続けるのは苦痛ってこと?)

拓海の口から“他人”だと明言され、キュッと唇を噛み締めた。

あの夜の彼の言葉が蘇る。

『幸い入籍前で名字も違う。こっちではレセプションで顔を知られている可能性があるが、日本へ帰してしばらく連絡を断てば赤の他人だ。こっちにいる間だけの関係だと思ってくれるだろう』

思い返すだけで涙が滲みそうになり、沙綾は小さく頭を振った。

今は過去に囚われていないで、拓海がなぜ会いに来たのかを聞かなくては。

「帰国されたんですか?」
「あぁ。元々ドイツは丸三年の予定だったが、六月に日本で開催されるG7と首脳会談の前に呼び戻された。また三年は本省勤務だ」
「そうですか」
「君は、未婚で子供を産んだんだな」

世間話から徐々に拓海の真意を探ろうとしていた沙綾は、いきなり核心に触れられてギクリと身体を強張らせた。

昨日家で待ちぶせされていた事実を考えれば、ある程度調べられたのだろうと想像はつく。