怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「らいたー! しぇいばーありゅ! しぇいばー! しゅべりだいもっ!」
「好きなもので遊ぶといい」
「やったー!」
「あ、湊人っ」

大興奮で駆けていく湊人をたしなめることも出来ず、沙綾は驚いて拓海を見上げた。

「……お子さんがいらっしゃるんですか?」

沙綾と離れていた二年半の間に、本物の結婚をして子供を授かったのだろうか。

自分勝手に痛む胸を押さえて尋ねると、拓海は心外そうに「そんなわけないだろう」とため息交じりに呟いた。

しかし、そうでなければあのキッズスペースに説明がつかない。

車のチャイルドシートだって、乗せ方がわからずに手間取っていると、拓海が「ここに座らせて。肩と腰の部分で留められるから」と、ベルトを慣れた手つきで締めてくれた。

(子供がいるわけじゃないのなら、この部屋はいったい……?)

戸惑いを隠しきれない沙綾をソファへ座らせると、拓海はキッチンから三人分の飲み物を持ってきて、ローテーブルに置いた。

そのうちひとつはプラスチックのコップで、よく見るとローテーブルの角にはベビーガードがつけてある。

「あの、ここは?」
「俺の家だが」
「以前、私に用意して下さったところは……」

そこまで口にすると、拓海の眉間に深い皺が寄った。