「あ、ごめん湊人。ちょっと待ってね、お話終わったらすぐに行こうね」
「悪いが、ここで立ち話をする気はない」
湊人に話しかけながらも、拓海に対する牽制のつもりだった。
しかしあっさりと躱され、こちらの言い分を聞く気がないとばかりに畳み掛けられる。
「乗ってくれ」
後部座席のドアを開けて促されるが、簡単に頷けるわけがない。
「申し訳ないですが、息子と約束があるので。お話があるのならここで」
「ぶーぶー! みなと、のりゅー!」
「あっ、こら!」
普段見慣れぬカッコいい車を前にして、興奮した湊人がバンバンと車のボディを叩く。
誰もが知るドイツ製のエンブレムが輝く高級車を無邪気におもちゃにする湊人の手を慌てて掴み、「すみません」と頭を下げた。
「湊人くんと言うのか」
拓海が湊人と目線を合わせるようにしゃがんだのを見て、ドキッと心臓が大きな音を立てる。
似ているかわからないと思っていたが、ふたり並んだ横顔はどことなく似ていて、傍から見れば親子にしか見えない。
沙綾がなにか言う前に、拓海がゆっくりとした口調で湊人に話しかけた。



