「まーま、いこーよー」
時計を見ると九時二十分を少し過ぎたところ。約束の十時まで家で大人しく待っているのは無理だろう。
「わかった。じゃあ少しだけいつもの公園で遊ぼっか。時間になったら、一回おうちに帰るよ?」
「いーよー」
「本当? お約束ね」
「おやしょくー」
小指を絡めてぶんぶん振ると、その手を繋いで玄関を出る。
共用廊下を歩いて階段へ向かうと、アパート前の道路に昨日見たばかりの車が止まっているのが見えた。
(うそ、なんで……?)
ギクリと身体が固まるが、湊人が階段を下りていってしまい、慌てて追いかける。
心の準備が整わないまま、再び拓海と顔を合わせることになった。
「おはよう」
「おはよう、ございます。あの、どうしてこんなに早く……」
「君を、二度と逃さないためだ」
「え?」
意味深な言葉に動揺していると、不機嫌そうに眉をひそめる拓海を見た湊人が、少し怯えながら「こーえん……」と沙綾の服の裾を引っ張った。



