怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


翌日はいつもよりも早く目が覚めた。昨日湊人に話した通り、春らしいぽかぽかの陽気でお出かけ日和だ。

朝食と家事を手早く済ませると、使い捨てのタッパーに昼食用のおかずを詰めていく。

海苔とほうれん草の入った卵焼きや、ピックに刺したミートボールと型抜きのにんじん、たこさんウインナーなど、つかみ食べがしやすいものを中心に作った。

おにぎりは海苔を仮面っぽく切り、秘密警備隊フラッシュライターの敵『怪盗スティール伯爵』にして湊人に見せると、「しゅごい! はくしゃく!」と手を叩いて喜んでくれた。

沙綾は弁当を作りながら、これから会う拓海のことを考える。

(長くは話さない。湊人と公園でピクニックするんだし、要件だけ聞いて帰ってもらおう)

拓海が交渉術に長けているのは、契約結婚を了承した沙綾がいちばんよく理解している。

彼の術中に嵌ってしまう前になんとか話を終わらせ、会うのは今日を最後にしたいと伝えなくては。

すぐにでも食べたそうにする湊人を制し、なんとかふたり分の弁当を準備し終えると、保冷バッグに入れる。

「お弁当食べるの楽しみだね」
「たのしみねー! いこっか!」

嬉しそうに自分のリュックを持ってくる湊人を見ると、割り切ったはずの罪悪感が頭をもたげてくる。

父親がいない私生児として産むと決めたのは、自分のエゴなんじゃないか。

今は幼く保育園にも預けていないから、父親がいないのがどういうことか、本人はわかっていないだろう。