怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


湊人の名は、拓海の“海”の字から連想して“湊”の字を決め、彼の周りに人が集まるようにと願いを込めてつけた。

まさか目元と名前だけで父親だとバレるとは思わないが、あまり湊人を拓海の視線に晒したくない。

彼が子供の父親は別にいると勘違いしているのなら好都合だ。

一時の契約妻が勝手に子供を産んでいたなんて、知られるわけにはいかない。

そうわかっているのに、帰国してすぐに別の男性の子供を身籠った女だと思われているのが悲しくて、胸が締めつけられるように痛んだ。

契約妻をお役御免になってから、そんな関係になった人なんてひとりもいない。

むしろ、二度と恋はしないと固く心を閉ざしている。

それでも沙綾が拓海に反論しないのは、父親が彼だとバレたら、湊人を取り上げられる可能性があるのではないかと怯えているからだ。

彼の父は厚労省の官僚のトップとして君臨し、拓海自身も外務省のエリート外交官として活躍している。

そんな家柄なら、男の子は後継ぎとして奪われてしまうかもしれない。

それだけは、なんとしても阻止したかった。

なにも言わずにだんまりを決め込む沙綾を見つめていたが、やがて拓海は小さくため息をつくと、腕の時計に視線を落とす。