(私が、好きだなんて言っちゃったから……?)
そう気付いた時、沙綾は自分の心が凍りついていくのを感じた。
あれほど前の恋愛でこりごりだと思っていたのに、どうしてまた恋をしてしまったのだろう。
元彼から浮気という裏切りに遭い、さらに職場でも追い詰められ、それを拓海によって救われた時にはすでに彼に惹かれていたのかもしれない。
(拓海さんに裏切られたわけじゃない。私が勝手に恋をしてしまったせい……)
だからこうしてひとりで帰国させられるのだ。
本物の夫婦になれると思っていたのも、気持ちが通じ合っていると思っていたのも、自分だけ。
恋愛感情ではなく信頼関係を結ぼうとしていた拓海にとって、沙綾の気持ちは煩わしかったのかもしれない。
そう思えば、なおさら惨めで胸がズキズキと痛み、喉の奥から吐き気が込み上げてくる。
「必ず連絡する。待っていてほしい」
そう告げる拓海の言葉は沙綾の耳を素通りし、胸の痛みを取り除いてはくれなかった。