(帰国させるって、こっちにいる間だけの関係って、私……?)
目の前が真っ暗になるとはこういうことを言うのだと、沙綾はぼんやりとした頭で思った。
拓海は沙綾に気付かずに電話の相手と話しているが、もうその声は聞こえない。
フラフラと寝室に戻り、電池の切れたおもちゃのようにどさりとベッドに横たわる。
(今の、本当に拓海さんの言葉?)
信じられずに、ぎゅっと目を瞑る。
すると先程聞いたばかりの拓海のセリフがグルグルと頭の中を駆け巡り、沙綾をより深い奈落の底に突き落とす。
(入籍してないのを“幸い”って言ってた。今度一緒に大使館に婚姻届出すの、楽しみにしてたのに……)
じわりと瞳に涙の膜が張り、堪えきれずに溢れた雫がシーツを濡らしていく。
本物の夫婦になれると思っていた。
契約結婚からはじまった関係ではあったが、ふたりで同じ時間を過ごす中で徐々に距離を縮め、身体を重ね、言葉にしなくても気持ちは通じ合っているのだと信じていた。
拓海が与えてくれる幸せに感謝し、自分も役に立ちたいと外交の勉強をして、彼もそれを喜んでくれていたけれど。
(拓海さんはずっと契約を守っていくつもりだったんだ……)



