怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


もしかして仕事を持ち帰っていたのだろうか。

帰宅してシャワーを済ませたらすぐに寝室に来た拓海は、珍しく饒舌に話したかと思えば、なんだか深刻そうな顔をして、結婚を後悔したことはないかと問うてきた。

なにか思い詰めているのなら助けになりたいと思うものの、仕事関係だとしたら沙綾の出る幕はない。

せめて夜食でも作ってあげようとリビングの扉を開けようとした時、拓海の低く強張った声が聞こえてきた。

(あ、電話してる?)

こんな夜更けにと疑問に思ったが、彼の職業を考えれば珍しくはないと思い直した。

緊急を要する話かもしれないし、時差のある国との連絡かもしれない。

それなら自分は離れたほうがいいと寝室に戻ろうと背中を向けた瞬間、「彼女は帰国させる」という意味深なセリフが沙綾の鼓膜を揺らした。

ドキドキと心臓が嫌な音を立て、呼吸が浅くなる。

これ以上は聞かないほうがいい。直感的にそう思うのに、足が動かなかった。

「幸い入籍前で名字も違う。こっちではレセプションで顔を知られている可能性があるが、妻として紹介したのは限られた相手にだけだ。日本へ帰してしばらく連絡を断てば赤の他人だ。こっちにいる間だけの関係だと思ってくれるだろう」

衝撃的な拓海の言葉に、沙綾は息をするのも忘れて立ち尽くす。