「私も、拓海さんについてきてよかった」
「沙綾」
「急な契約結婚の話には驚きましたけど、今となっては本当によかったって思ってます」

沙綾がそう思うように、拓海にとっても、この結婚の意味合いが変わってきているのだとしたら。

恋愛には興味が無いと言っていた彼だけれど、これ以上ないほど大切にしてもらっていると思う。

それは沙綾の自惚れではなく、拓海の日々の言動から明らかだ。

言葉では伝えていないし、伝えられてもいないけれど、もう自分たちの結婚は“契約結婚”とは違うのではないだろうか。

はじまりはどうであれ、今は……。

そこまで考えたところで、沙綾は目の前の拓海がどこか苦しげな表情をしているのに気がついた。

「拓海さん?」
「本当に? 後悔したことはないのか」
「え?」
「外交官は国の政策にも深く関わるため徹底した守秘義務があり、国益のために働けば敵を作る事態にもなる。それでも君は……」

拓海はそこで言葉を切ると、眉間を押さえながら小さく首を横に振った。

忙しそうにしていたし、疲れもあるのだろうが、なにか悩みや事情がありそうな気がする。

彼の言っていた通り、職業柄仕事の内容は妻相手だろうと話せないので、沙綾には具体的に聞くことは出来ない。