ハプニングはあったものの、“外交官の妻”デビューは大きな失敗もなく終わったことに安堵のため息を零す。
「疲れたか」
「いえ、ただ想像を超えた世界だったので」
眩しいほど煌めくシャンデリア、ドレスアップした人々、テレビや新聞で見かける顔ぶれが集うパーティーは、少し前までただのOLだった沙綾には無縁の世界。
シャワーを済ませてリビングのソファに座ると、ようやくひと心地がついた。
「沙綾」
「はい」
「改めて、今日はありがとう。君のおかげで、マイヤー議員とも想定以上に親しく話せた」
あの後、モニカ夫人に気に入られた沙綾は、今度ぜひ家に夫婦で遊びに来てほしいと言ってもらった。
「着物の件は、マイヤー夫妻だけでなく、黒澤大使も感心していた。まさかそんなところにまで気を遣ってくれていたなんて、俺も驚いた」
「そんな……お役に立てたのならよかったです」
そうでなくては、彼にとって結婚した意味がないのだから。
拓海への返事に続いた自分の心の声に打ちのめされ、沙綾はうまく笑顔が作れなかった。
それをどう受け止めたのか、拓海が距離を詰め、そっと抱きしめられる。



