「あっあの、拓海さん……」
「悪かった。やはりひとりにすべきではなかった」
「いえ、それより……」
まだ自己紹介も済んでいないと拓海に促すと、彼は一緒にいたドイツ人の男性を紹介してくれた。
「社会民主党のミヒャエル・マイヤー氏だ。マイヤー議員、彼女が私の妻です」
「はじめまして。沙綾と申します。お会いできて光栄です」
「やぁ。長くご主人を拘束して申し訳なかった。大丈夫だったかい?」
「いいえ、とんでもございません。こちらのご婦人が機転を利かせてくださって」
「おや、ちょうどいい。私も妻を紹介しておこう」
すると、先程の婦人がマイヤー議員に寄り添った。
「改めて、モニカ・マイヤーよ。よろしくね、沙綾」
彼女が大物議員の妻だったとは。沙綾は驚きながらも、失礼のないように丁寧に腰を折った。
「光栄です。モニカ夫人」
「モニカ夫人、妻を助けていただき、ありがとうございました」
「素敵な奥様ね。大事になさいな」
「はい、必ず」
拓海がモニカ夫人の言葉に大きく頷いたのを見て、沙綾の胸にぎゅっと甘い痛みが広がった。



