怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


安堵から小さく息を吐くと、最初に声を掛けてくれた婦人が「気付くのが遅くなってごめんなさいね」と頭を下げたので、沙綾は大慌てで首を振った。

「いいえ。お気遣いいただきありがとうございました。おかげで助かりました」
「怖かったでしょうに、毅然としていて立派でしたよ。もしかして、あなたのパートナーは私の主人が連れて回っている方かしら」
「え?」

沙綾が首をかしげた時、拓海が黒澤大使と、さらにもうひとり、ドイツ人の男性と一緒に戻ってきた。

彼には見覚えがある。ドイツ与党の大物政治家で、次の首相に最も近いと言われている人物だ。

「沙綾?」
「拓海さん」
「なにかあったのか」

無駄な心配をかけたくなくて、いいえ、と首を振る前に、周囲の女性たちが拓海や黒澤大使に先程の一連の流れを口々に説明してしまった。

「“ヤマトナデシコ”とは彼女のような女性を言うのね。素晴らしい返しだったわ」
「それにしても、あの人は誰だったのかしら」
「確かBEL電力の社長の長男だったわ。以前のパーティーでも、酔って女性に声を掛けていたと聞いたことがあるもの」

代わる代わる喋る婦人たちの話を聞いた拓海の眉間に深い皺が寄り、周りの目も憚らず沙綾の肩を抱き寄せた。