怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「沙綾」

名前を呼ばれると、吸い寄せられるようにその瞳から目が離せなくなり、心臓の音が聞こえてしまうのではと思うほど鼓動が暴れている。

「あ、ありました……」
「ハハッ、ほら見ろ」

初めて見た弾けるような笑顔が、沙綾の心の中に焼き付いた。

(そんな無邪気な笑顔するなんて、ずるい……)

きっと沙綾がなぜ嘘をついたのかまでお見通しなのだろう。

「も、もうっ! からかわないでください」

小さくもがいて囚われていた腕から抜け出ると、慌てて背を向ける。

拓海は笑いを噛み殺しながら沙綾の手を取った。

「拗ねるなよ。ほら、行くぞ」

ぎゅっと握られて、また胸が高鳴る。

(だめ、恋はしないって決めた。だからこその契約結婚なんだから……)

それでも沙綾は手を振りほどけず、この日はずっと手を繋いだまま過ごしたのだった。