怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


どちらも恋や愛といった感情が含まれているわけではないのに、心が勝手にときめいてしまう。

(拓海さん、なんだか距離感が近い。恋愛に興味ないって言ってたのに、実はスゴいタラシなんじゃ……)

沙綾がどう返せばいいのかわからずにうろたえていると、拓海がさらに追い打ちをかけてくる。

「キスシーンは? なかったのか?」
「え?」

沙綾は抱きしめられたままという状態を意識しないよう、必死に頭を働かせた。

主役の二人はしっかりと抱きしめあった後、ゆっくりと自然に顔を寄せ合い、唇が触れ合う直前で舞台の幕が下りる。美しく余韻のある素晴らしいラストシーンだ。

そう告げようとしたところで、ハッと気付いた。

(それを言ったら、キスしてほしいみたいじゃない……?)

「な、なかった、なかったです」
「嘘だな」
「嘘じゃないですよ、本当にっ」
「本当に?」

背中に回された腕が緩み、額が合わさるほど至近距離で視線が重なる。