(やってしまった。ひとりで来てるわけじゃないのに。拓海さん、絶対に引いてる……)
沙綾が羞恥心に苛まれ、両手で顔を覆っていると、拓海は「いや、可愛いなと思っただけだ」と笑い、自身の両腕を沙綾に向けて開いてみせた。
「えっ……、え?」
「こういう聖地巡礼は、同じ場所で同じことをするのが醍醐味じゃないのか?」
ぽかんとした表情で首をひねったまま、沙綾は拓海を見上げる。
(それって……)
近付いてきた拓海にオロオロしてる間に、長い腕でぎゅっと包み込まれた。
「あっ」
急な抱擁にパニックになり、やり場のない手が身体の横でぱたぱたと彷徨う。
「『ふたりの世界でぎゅーっと抱きしめ合う』だったか? それなら、沙綾も俺の背中に手を回さないと」
フッと耳元で笑った吐息が耳朶を擽る。
「そ、そんなこと、言われても……」
こうして抱きしめられたのは、退職時に沙綾が泣いたのを慰められたとき以来。



