「え! 夕妃も一緒に参加するんじゃないの?」

待ち合わせにやってきた相手を見て、沙綾は驚いて声を上げた。

「ううん、沙綾の分しか申し込んでないよ」

したり顔で笑うのは、横井夕妃。

沙綾の高校の同級生で、二十五歳になった今でも付き合いがあり、親友と呼べる仲だ。

百七十六センチという長身、アッシュブラウンの髪はさらさらのショートカットで、街行く人の羨望の眼差しを集める程細く長い脚を、黒のスキニーパンツで引き立てている。

淡いピンクの膝丈のドレスに身を包み、ダークブラウンの猫っ毛を緩く編み込んでアップスタイルにしている沙綾と違い、夕妃は完全に普段着だ。

「夕妃も一緒だと思ったから来たのに……」
「そう言うと思ってたから黙ってたんだよ」

沙綾と夕妃が待ち合わせたのは『ホテルアナスタシア』のロビー。

天井には大輪のバラをイメージしたシャンデリアが輝き、木目調の大きな階段にはワインレッドの絨毯が敷かれ、重厚な雰囲気を醸し出している。

正面に飾られた季節の花々は、訪れた人々の気分を上向きにさせ、その場を華やかに演出していた。

夕妃からこのホテルのバンケットルームで開かれる婚活パーティーに誘われたものの、半年前に彼氏の浮気が原因で破局した沙綾は、結婚どころか恋愛にも前向きになれない。