怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「ありがとうございました。結局、人事部にまで付き合わせてしまってすみません」

店舗から出たその足で、隣のオフィスにある人事部へ行き、退職の手続きをすべて終えてきた。

当然沙綾がすべて自分で話すつもりだったが、拓海はまず会社の重役を呼ぶように人事に掛け合い、やってきた彼らに先程の音声を聞かせた。

それから、丸一ヶ月分残っていた有給休暇を消化した上で沙綾の退職を認めさせ、社長からの謝罪まで求めた。

雅信はもちろん、ひなのにもなんらかの処分が下るだろうが、もうどうだっていい。

これで、すべて終わりだ。

「当然だ。妻を守るのは夫の義務だからな」

それは恋愛結婚ではなく、契約結婚でも当てはまるものなのか、沙綾にはわからない。

しかし、ようやく退職した今、いよいよ拓海と結婚するのだという実感が湧いてきた。

胸の奥がむず痒く、妻と呼ばれ見つめられると、なぜか居心地が悪い。

「あ、あの、城之内さん……」
「拓海」
「え?」
「夫婦になるんだ。そろそろ名前で呼んでくれてもいいだろう」

そう言われ、近い将来、自分も“城之内”になるのだと思い至り、ふいに顔が熱くなった。

そんな沙綾を見下ろしながら、拓海は優しげに目を細めて、ぽんと大きな手を彼女の頭に乗せた。