怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「お前、結婚するって、この男と……?」
「えぇ、まぁ」

あまりにも華麗にふたりを攻撃する拓海に呆然としていた沙綾が、間の抜けた声で返事をすると、雅信が急に大声を出した。

「ふざけるな! なにが急に決まった結婚だ! お前、俺と付き合ってた頃からこの男と浮気してたんだろう!」

突然怒鳴られ身体がビクッと竦むが、そんな沙綾の肩をそっと支えるように寄り添う体温に安心する。

隣を見上げれば、いつの間にかそばにきていた拓海が、しっかりと視線を合わせて頷いた。

まるで守られているかのように感じられ、ひとりでに頬が赤らむ。

わざわざ約束もしていないのに職場まで来たのは、こうして謂れなき中傷から守るためだなんて、自惚れ過ぎだとわかっている。

単なる契約結婚。外国語が多少話せるのなら誰だっていい、お飾りの妻。

それでも隣に立ってくれているだけで、自分はひとりではないと思えて、戦える。

契約結婚でも、信頼関係は生まれる。あの日、彼が言っていた通りだ。

(私は、私を裏切らないと言ってくれた城之内さんを信じる)

沙綾は拓海に頷き返すと、半年前までは好きだと思って付き合っていた男に視線を戻した。

「なにを根拠にそんなデタラメを仰るのかわかりませんが、結婚は事実です。退職の手続きと引き継ぎを」
「認めない! 俺と別れても涙ひとつ見せずに平気で仕事してた女が結婚なんか出来るわけないだろ! 今お前がもってる案件がすべて済むまで退職なんてさせないからな。お前が抜けたらヨーロッパはどうなる! チーフになった矢先に売上を落とさせる気か!」