怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


そこに「何の騒ぎだ」と、今年からヨーロッパチームのチーフとなった雅信が現れた。

「あの……」
「うるさくしてすみません、チーフぅ。吉川さんに、定時に帰るなって怒られてましたぁ」

沙綾が説明するより先に、ひなのが上目遣いで雅信に言い訳をする。

とんでもない端折り方にため息をつきたくなるのをグッとこらえて反論しようとするが、さらにひなのが言葉を続けた。

「ひなのがこれからデートだって言っちゃったから、吉川さん、きっとショックで意地悪しちゃったんだと思います。ごめんなさぁい」

流れてもいない涙を拭いながら、さも反省しているかのように殊勝に肩を落としているひなのに対して、もはやここにいないで女優にでもなればいいのにと思う。

「吉川」
「……はい」
「仕事にプライベートを持ち込むのはやめてくれ。定時で帰るのが悪だなんて風潮は良くない。それどころか、残業しなくてはならない効率の悪さを改めるべきだ」

(……ダメだ。もう限界)

自分より年下の世間知らずな女の子相手なら、なにをどう言われてもある程度受け流せる。

孤立状態にあるのは居心地が悪くはあったが、職場にはあくまで仕事をしにきているのであって、馴れ合いを求めているわけではない。