怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


フォトツーリストは接客カウンターの奥にオフィスがあるタイプの作りで、まもなく店舗の営業時間は終了となる。

沙綾は後ろのデスクでネイルをいじっているひなのに声を掛けた。

「小山内さん。時間だから受付終了の札を出してきてくれる? 店頭にお客様がいないのを確認してね」

新入社員は皆添乗業務にあたるため、店舗にいるのは今年二年目になる社員が一番後輩となる。

そのため、雑務は基本ひなのや彼女の同期がやる仕事なのだが、一向に動かないため仕方なしに指示を出した。

「えぇー? 気付いたなら吉川さんが行ってきたらいいじゃないですかぁ」

まるで社会人とは思えない口調や態度だが、一年も彼女と職場を同じにしていれば、否が応でも慣れてしまう。

「そういう問題じゃないでしょ。与えられた仕事は、どんな雑用でもきちんとこなさないと」
「もぉ、そういうお説教は聞き飽きたんですけどぉ。あ、定時。ひなの、このあとデートなんですぅ。吉川さんと違って、プライベートの方が忙しいんでぇ」
「定時とか関係ないから。ちゃんと仕事をしてから」
「やだぁ、吉川さん。まだチーフと別れたの恨んで、ひなのに意地悪する気ですかぁ?」

沙綾の言葉を遮り、甲高い声が職場内に響き渡る。

上司や同僚は社長のお気に入りである彼女と関わり合いになりたくないのか、誰も注意をしようとせず、すべて見て見ぬふりだ。

それは今だけでなく、この半年間ずっと。