怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


ひなのに至っては、入社一年目の社員は義務であるはずの添乗員業務を、『旅程管理主任者』の資格が取れず、従事できなかった。

国家資格ではあるものの、二日間の丁寧な研修があり、合格率は九十八パーセントを超えるが、ひなのはわずか二パーセント側の人間だった。

それが許されたのは、フォトツーリストの社長の姪だからだそうだが、英語や仕事が出来なくて『ひなのにはわからないから、吉川さんお願いしまぁす』と業務を丸投げされている沙綾にしてみれば、彼の言う“謙虚”とは一体なにを指しているのかと腹が立つ。

なにより、添乗業務に就かない代わりに外回りを覚えさせようとしていたはずなのに、それを利用してホテルに行くなど言語道断だ。

すぐに別れを切り出し破局したものの、ひなのがあることないこと騒ぎ立て、今や沙綾と雅信が別れたのは、汚部屋に住んでいるワーカホリックの沙綾が、気のない雅信に結婚を迫ったからだという全くのでまかせが職場に蔓延っている。

浮気の証拠である日時の入ったホテルの領収書の写真は撮ってあるため、会社に言おうとも考えたが、これが雅信のものだと証明しようがないと思い、結局なにもできずに今に至る。

沙綾は先程一緒に旅行のプランを立てた五十代の夫婦ための航空券やホテルの手配を済ませると、グッと背中を反らせて伸びをした。

結婚三十周年のお祝いに、九月にドイツで二週間のバカンスを楽しむそうだ。

半年も先の予定を組みに来るなんて、ワクワクしすぎていて恥ずかしいと語っていた奥様がとても可愛らしかった。

素敵な旅行になるよう、念入りな下調べをして提案したプランを気に入ってもらい、すべて任せると言ってもらえた。

こういう時、忙しくても頑張ってよかったと嬉しさを覚える。