仕事の忙しさにかまけて恋人との時間が減り、浮気されてしまったのは半年前。
三年先輩である魚住雅信から入社してすぐに告白され、一度は断ったものの、熱意に絆されて頷き、約一年付き合っていた。
同じ職場で働いているため、互いにどれほど忙しいのかはよくわかる。
その頃、アウトセールスによく出ていた雅信は、沙綾の一年後輩の小山内ひなのを、勉強のためだと言って連れて回っていた。
法人営業は決まれば大きいが、その分何十件と学校や会社を回り、担当者に会ってもらえるまで何度も足を運ばなくてはならない大変な業務だ。
なかなか契約が取れずにいたのも見ていたし、後輩の指導もしながらでは忙しさも疲労も段違いだろうと、あまり連絡を頻繁にしなかったのは沙綾なりの気遣いだった。
しかし、雅信はそうは受け取らなかったらしい。
あろうことか彼は後輩のひなのと外回り中にホテルへ行き、男女の仲になっていた。
『沙綾は俺がいなくても、仕事とミソノがあればいいんだろ? ひなのちゃんは俺がいないとダメだって泣くんだよ。仕事だって英語だって、わからないから教えてくださいって、お前と違って謙虚だし』
というのは浮気男の言だ。
ツッコミどころが多すぎて、悲しみよりも呆れが先にきた。
確かに雅信は先輩ではあるが、英語は元々あきらかに沙綾のほうが話せた。しかし、それを鼻に掛けてはいない。
それに仕事についても、沙綾は『旅行業務取扱管理者』や『旅行地理検定』、『観光英語検定』といった資格を取得するなど努力を怠らなかったのに対し、雅信は忙しいと愚痴はこぼしても、特に努力しているところを見たことがない。



