怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


(よし、頑張ろう。今日を乗り切れば、明日は休みなんだし)

ひとり頷くと、店舗へ出ていくため大きく深呼吸をした。


沙綾が働いている『フォトツーリスト』は、パッケージツアーなどの企画から手配、販売までを自社で行い、他の旅行業者が企画したツアーも販売を請け負う中小旅行代理店だ。

偏差値の高い有名大学での成績も優秀で、英語の他にドイツ語も話せる沙綾は、本来どんな大手旅行代理店からも引く手あまただったはずが、就活の時期に両親の事故が起こり、それどころではなかった。

深い悲しみから這うようにして立ち上がり、なんとか決まった就職先がフォトツーリストだった。

この四月で三年目になる沙綾は、入社後一年間は添乗員として日本各地を飛び回り、去年から希望していたヨーロッパチームに配属となった。

大手と違い、明確に部署ごとに業務がわかれているわけではなく、チーム内でツアーの企画からプランニング、営業、販売まで全てをこなさなくてはならない。

添乗員時代、現地での客への気配りや、旅と旅の合間に書かなくてはならないレポートなども大変ではあったが、現在の忙しさはその比ではない。

ツアーの企画に通れば、販促物の作成に接客、航空会社との打ち合わせなど、とにかく仕事が多岐に渡る。

海外のホテルなどを手配するには当然英語が必要で、時差や文化の違いで行き違いも多々あり、なかなか骨が折れる作業だ。

接客をする中で個人客の旅行のプランニングなどを任されると、その仕事量はさらに増える。

定時に帰れた日などないに等しく、終電に駆け込んだ回数は数え切れない。完全なるブラック企業だ。