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翌週の金曜日。

ロッカールームに入ると、シンプルな私服のワンピースから、制服の白いブラウスと黒のスカートに着替え、同じ黒のベストを羽織り、首元に薄紫が基調となったスカーフを巻く。

内側の鏡を見ながら髪が乱れていないかを確認し、リップを塗り直した。

「はぁ……」

ここ半年は仕事に来るのが憂鬱だが、今日のため息はそのせいではない。

気を抜くと、先週末のめまぐるしい展開が脳裏に浮かぶ。

『君を妻としてドイツに連れて行く』

今もまだ耳に残る拓海の声を振り切るように、ぶんぶんと首を振った。

今日も仕事が目一杯詰まっている。

彼の真剣な眼差しや、滴るような色気を含んだ声音を思い出している場合ではない。

それに、今日こそ上司に退職の意向を伝えなくては。

忙しそうにしている周囲を見ると、どうしても仕事を辞めるとは言い出しにくく、まだ伝えられていない。