怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「沙綾さん」

沙綾は背筋を正し、その視線を正面から受け止める。威圧感はないものの、彼が話し始めると自然と耳を傾けてしまう、そんなオーラを持った人物だ。

眼光も鋭く、やはり拓海の父であり湊人の祖父であるのだと心の片隅で思いながら、緊張で震えそうな声で応えた。

「はい」
「拓海から経緯はすべて聞いた。確かに官僚には守秘義務があり、家族にも話せない職務内容も多々ある。だが、だからといって大切な人を悲しませていいはずがない。息子の不手際で、あなたには多大な苦労を掛けてしまった。申し訳ない」
「いいえ! そんな……」

まさか義彦からも謝罪を受けるとは思わず、沙綾はうまく言葉を返せない。

拓海とすれ違ってしまったのは、決して彼のせいではないと思っている。言葉が足りなかったところがあるかもしれないが、断片的な事実をネガティブに受け取って、『必ず連絡する』と言った拓海を信じられなかった沙綾も悪いのだ。

だけどこれからは拓海を信じ、愛してついていきたい。この結婚を認めてほしい。たどたどしくも思いの丈を伝えると、義彦は「もういい大人だ。当人同士で方がついたのなら、私は反対などしないよ」と鷹揚に笑った。

「こんな息子だが、よろしく頼みます」
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
「近くにいると当たり前のことを言葉にするのを忘れてしまう。夫婦だからとすべてを詳らかにする必要はないが、大切な思いは言葉にするべきだ。お互いにね」
「はい」

まさにその通りだ。沙綾が義彦の言う夫婦としての在り方に何度も頷いていると。