入籍を終えて無事に沙綾も湊人も城之内姓になった。いい機会だと自己紹介を教えたが、公園でもスーパーでも誰彼話しかけて自分の名前を言うようになり、少し困っている。
ブイサインのように二本指を立てた湊人に、義彦は目尻の皺を深くして頷いた。
「湊人くんか。元気がいいな」
「親父。それから大地も。先日説明した通り、彼女が俺の妻の沙綾、そして俺の息子の湊人だ」
「沙綾と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」
「まずは座りなさい。話はそれからだ。飲み物はなにがいいかな?」
咄嗟に「お構いなく」と遠慮した沙綾だが、義彦は初孫が来るのを楽しみにしていたらしく、ジュースもおやつも大量に買い込んでいるのだと、大地が苦笑しながら教えてくれた。
ありがたく湊人にオレンジジュースをいただき、焼き菓子と紅茶を運んできた家政婦が退室するのを見計らって、大地が「あの……」と口を開いた。
「先日は俺の勘違いから失礼なことを言って、すみませんでした」
両手を膝に置き、深く頭を下げる大地に、沙綾は慌てる。
「あ、あのっ頭を上げてください!」
「俺、沙綾さんが事情を説明されずに帰国したとは知らず、あんなこと言って。それに浮気相手だって決めつけた人が女性だって聞いて、俺のせいでふたりは別れてしまったんだって思ったら申し訳なくて……。本当にすみませんでした」
「いえ、大地さんのせいではないです。外交官という職業を理解できていなくて、勝手に離れたのは事実ですから」
なかなか頭を上げない大地に恐縮していると、その隣に座っていた義彦が真剣な面持ちで沙綾を見据え名前を呼んだ。



