「まま、おしろみたい! まほうつかい、いる?」
「お城みたいだね。魔法使いがいるかはわからないけど、中で騒いだらダメよ? 挨拶はちゃんとしてね」
「はーい」
湊人のファンタジーな発言に少しだけ緊張が緩んだ。それに続いて拓海が背中を軽く叩き「心配しなくていい」と微笑みを向けてくれる。
「ただのおじさんと、沙綾より五つも年下の若造だ。全部説明はしてあるから、沙綾はただ俺の隣にいてくれればいい」
その頼もしさに、ドイツでのレセプションパーティーを思い出した。あの時も心臓が飛び出そうなほど緊張していたけれど、今日はその比ではない。
インターホンを押すと、沙綾達を出迎えたのは城之内家の家政婦だった。そのまま客間に通され、拓海の父との初対面を果たす。隣には大地も座っていた。
「いらっしゃい。拓海の父の義彦です」
重厚感のあるダークブラウンのソファから腰を上げ、義彦が笑みを浮かべた。
短く整えられた黒髪にシルバーフレームの眼鏡、セーターにスラックスという出で立ちは、さすが厚労省の事務次官というだけあって貫禄がある。
拒絶や嫌悪といった雰囲気は感じられず、沙綾は内心で安堵のため息を漏らした。
「はじめまして。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「じょうのうちみなとです、にさいです!」
沙綾が今さらの訪問になってしまったのを詫び、名乗ろうとしたところで、湊人が大きな声で新しいフルネームを口にした。



