怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


別れた元彼と浮気相手の女性も同じ職場なこと、彼らは沙綾に罪悪感を抱くどころか、こちらを悪者にして噂を吹聴していること、そのせいで同僚から距離を置かれ仕事がやりづらいこと。

いっその事『こんな職場辞めてやる!』と啖呵を切れればいいものの、沙綾はどうしても思いきれずにいる。

大学三年の冬、飛行機事故で両親を亡くして以来、ひとりで必死に生きてきた。

仕事を辞めてすぐに転職先が見つかればいいが、そう簡単にうまくいくとは思えない。

頼るべき両親がいない沙綾にとって、職がないのは死活問題だ。

しかし旅行代理店の業務は忙しく、働きながら就活をするのは、現実問題なかなか難しい。

「それならなおさら、俺とドイツに行こう」
「ドイツ……」
「居心地の悪い職場に見切りをつけて、俺と結婚すればいい」

それもいいかな、と、ぼんやりした頭で思う。

なにもかも一旦リセットするために、海外に行くという案は悪くない気がした。

それに、拓海と話しているのは楽しい。

頭のいい人は聞き上手だと言うが、拓海はまさにそれだと思う。

お酒の力も多分にあるが、一緒にいて心地いいと感じている。

「沙綾の最低の元彼と違って、俺は浮気はしない」

さらりと名前を呼ばれ、ドキンと胸が高鳴る。

その眼差しの中に誠実さを見つけようとしたけれど、彼は先程言っていたではないか。