怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


拓海はL字の少し離れた場所に、少し緊張した面持ちで座っている。

沙綾もまた内心はドキドキしているが、湊人に悟られまいと必死に笑顔を作った。

「あのね、今までずっと湊人はママとふたりだったでしょ? でもね、湊人には本当はパパもいるの」
「ぱぱ?」
「そう。拓海さんが、湊人のパパなの」

湊人はきょとんとした顔をしながら、じっと沙綾の顔を見ている。

その瞳は二歳児ながらこちらの心の奥を覗くような強い光を放っていて、やはり湊人は拓海の息子なのだと今更ながらに実感した。

かと思うと、ハッとなにかに気付いたように勢いよくキッズスペースへ走っていき、一冊の絵本を持ってきた。

「まま、これ?」

湊人が手にしていたのは、可愛らしいうさぎの絵柄の『かぞくっていいな』という絵本。仲良く暮らしているうさぎのパパとママ、そしてぼくが出てくる。

うさぎの両親の間に小さな子うさぎがいて、手を繋いだままぴょんと飛んだ子うさぎが満面の笑みで楽しそうにしているページを開き、湊人は必死に指をさしていた。

「たくみ、このぱぱ?」
「そう、拓海さんはこのパパうさぎと同じで、湊人のパパなんだよ」

沙綾が肯定してやると、湊人は絵本と拓海を交互に見ては、彼なりになにかを考えている様子で黙り込む。