怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


しかし、なぜか拓海が適度に相づちをうち、熱心に話を聞いてくれるのが嬉しくて、三杯目、四杯目と杯を重ねた。

「その舞台を見たら、ベルリンに行きたくなるんじゃないか?」
「絶対なりますよ。ただでさえドイツは昔両親と住んでいたので、また行きたいって思ってるんです」
「行けばいい。俺と一緒に」

艶のある甘い低音の声が、ドンっと下腹に重く響いた。

バーのダウンライトの効果も相まって、匂い立つような男の色気を湛えた流し目を送られ、沙綾は胸を掴まれたような錯覚に陥る。

ぎゅっと苦しくなるような、息が詰まるような、それでいて、不快ではない感覚。

カクテルではなく、彼にあてられて酔ってしまいそうだと考え、慌ててグラスに口をつけた。

真っ赤になっているであろう顔を誤魔化すため、いつも以上にお酒が進んでいるが、それを気にしている余裕はない。

「仕事はなにを? 接客業としか書いていなかったが」

無表情を装いながらも慌てふためく沙綾をクスリと笑いながら、拓海が再び話題を変えた。

自分が照れているのを見透かされているのだとわかり、ますます恥ずかしい。

「旅行代理店で働いています。といっても、転職を考えているところで……」
「転職?」

アルコールでふわふわとした頭で、沙綾は職場の居心地が悪い現状を話し出す。