「だめ! だめ! えーんしないのよ!」
「ママはね、湊人も拓海さんも大好きだから、みんなで仲良くしたいな。湊人は?」
「みなと、ままだいすき」
「ありがとう」
「たくみは……」

今までだったらきっと『だいすき』と言っていただろうに、言葉が途切れ緊張が走る。

「拓海さんは?」
「ちょっとだけ、すき」
「ちょっとだけなの? どうして?」
「だって……」

それっきり言葉は続かず、ぎゅっとしがみつくと何も言わなくなった。

沙綾とのふたりきりの生活から三人家族になった実感が、今になってようやく湧いてきたのだろうか。

よく下の子が生まれると、母親を取られてしまいそうな不安から上の子がヤキモチを妬いて赤ちゃん返りすると聞くが、それと同じ感覚なのかもしれない。

沙綾はしがみついてきた湊人を安心させるように、ぎゅっと抱きしめ返した。

「湊人。大好きだよ」
「みなとも、ままだいすき」

二歳を過ぎて、大人が思っている以上に、子供だってたくさんのことを感じて考えているに違いない。