怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「今日のパーティーに参加したのはなぜだ? 見ていた限り、積極的に相手を探していたようには見えなかったが」

美味しさを目を閉じて噛み締めながら、沙綾は質問に頷いた。

「親友が申し込んでくれたんです。このままだと私が一生恋愛しないって言い出しそうだからって」
「以前の恋人の浮気が原因で?」
「……そうですけど」

直球の質問に口を尖らせる。

好きなタイプの欄に、バカ正直に“浮気をしない人”なんて書くのではなかった。

心の中で後悔していると、拓海は器用にボロネーゼを取り分け、沙綾の分の皿を差し出しながら小さく笑う。

「悪い。話題を変えよう。趣味は観劇と旅行と書いていたな。英語が話せるのなら、海外旅行も困らないだろう」
「でも、海外旅行はハードルが高くて。聖園歌劇団が好きなので、お芝居の舞台となった場所に行きたいんですけどね。フランスのベルサイユ宮殿とか、イタリアのトレビの泉とか」
「ベルリンの壁がモチーフになった舞台はないのか?」

まさか拓海がミソノの話題にのってくれるとは思わず、沙綾は嬉々として答えた。

「あります! ちょうど来月上演する『隔たれた恋人たち』っていう舞台が、ベルリンの壁によって引き裂かれてしまう男女の物語なんです! 二十年前の名作の再演なんですけど、私とっても楽しみにしてて」

なぜなら『隔たれた恋人たち』の主演を務めるのが、親友である夕妃なのだ。

自分が幼い頃の名作を親友の再演で見られるなんて、こんなに幸せなことはない。嵐がこようと槍が降ろうと絶対に観に行こうと決めている。

前情報で仕入れたストーリーを聞かせたり、ミソノの男役がいかにカッコいいか、自分がどれだけミソノを愛しているかを延々と語る沙綾は、カクテル二杯ですでに酔いが回っている。