怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


当時を思い出したのか、言葉を詰まらせながら話す沙綾を堪らず抱きしめる。

「違う。契約結婚なんて言いはしたが、沙綾と出会ってすぐに惹かれた。ドイツではじめて君を手に入れた夜、俺がどれだけ嬉しかったか」

ぎゅっと襟元を握る沙綾が可愛くてそっと頭を撫でると、久しぶりの手触りに彼女への愛おしさが心に降り積もる。

「本当はずっと言いたかった。だが言葉にしてしまえば、もう君を日本に返せないと思った。こんな風に悩ませて泣かせてしまうのなら、もっと早く言えばよかった」

沙綾を抱きしめる腕に力を込め、ずっと伝えたくて燻っていた想いを迸らせた。

「君が好きだ」

はじめて言葉に乗せた想いは恥ずかしいくらいに震えていたが、それでももう一度、伝わるまで何度でも言おうと思った。

「沙綾、好きだ。好きだ。三年前からずっと、君だけを愛してるんだ」
「拓海さん……」

拓海はスーツの胸ポケットから白い封筒を出し、中の書類を沙綾に見せる。

「今日は沙綾の話を聞いた後、これを渡して改めてプロポーズするつもりだった」

それは三年前、拓海がドイツ大使館で取り寄せた婚姻届。

届け出の日付は三年前の沙綾の誕生日。住所はドイツのベルリン、夫となる人の部分と証人の署名は記入済みだ。