怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


考えてみれば、気付くきっかけはいくつもある。

そもそも沙綾が帰国した日と湊人の誕生日を計算すればすぐにピンときたに違いないし、湊人に弟の面影を感じたのも血の繋がりがあったからこそだった。

それに思い至らなかったのは、完全に自分の落ち度だ。

彼女に有無を言わさず帰国させ、誕生日どころか妊娠や出産のときまでずっとひとりにしてしまっていたとは。

沙綾には頼るべき両親がいない。だからこそ、三年前に契約結婚に頷いてくれたのだというのに。

どんなに不安で寂しかっただろう。沙綾のこれまでを思えば、なぜどんな手段を使ってでも連絡を取らなかったのかと、自分への怒りと後悔ばかりが湧いてくる。

「沙綾」
「私は契約上の妻じゃないんですか? 拓海さんは恋愛に興味はないんですよね。だから、恋愛感情をもった妻はいらなくなった……」
「まさか!」

父親が自分であると頷いてほしくて名前を呼んだが、思いも寄らない返しに驚いて目を見開く。

「どうしてそんな」
「電話を聞いたんです。帰国してほしいと言われた前の夜、“幸い入籍前で名字も違う”、“こっちにいる間だけの関係だ”って話してて。帰国したらあんな立派なマンションが用意されてたから、その……いわゆる手切れ金の代わりなんだって」
「そんなわけないだろう!」

荒らげた声音に沙綾の身体がびくんと小さく跳ねたが、それに構っていられないほど早く誤解を解きたかった。