怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


沙綾が拓海に愛想を尽かして他の男を選んだからこそ、子供の父親はその男だと思い込んでいた。

だが大地が見た“ユウキ”は女性で、沙綾は同居する際、現在恋人はいないと言っていた。

『父親は……いません』
『いない? 別れたのか? だとしても、養育費などの義務は』
『彼は、あの子の存在を知らないので』

再会直後の沙綾との会話を思い出し、愕然とした。

(まさか、俺なのか……)

喉を通る空気がヒュッと音を立てる。拓海は言葉を失ったまま、目を伏せた彼女のまつ毛が震えるのを見つめた。

沙綾が他の男といると聞かされた時、真っ先に彼女はそんな女じゃないと否定した。

前の恋人に浮気され裏切られた彼女が、帰国してすぐに別の男のところへ行くわけがないと思ったからだ。

なにより、自分を好きだと言ってくれた彼女を信じたかった。

華奢な両肩を掴み、自分に向き直らせると、視線を逸らさせないよう揺れる瞳をじっと見つめる。

「湊人くんの父親は、俺だな?」

断定した問い掛けにビクッと身を竦めた沙綾の反応で、疑念は確信に変わった。

(なんてことだ。そうとも知らず、俺は今まで一体なにを……!)

自分をここまで無能だと思ったのははじめてだった。もう少し賢くて器用な人間だと思っていたが、とんだ思い上がりだ。