怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


思わず目の前の夕妃にしがみつくと、玄関のドアが勢いよく開けられた。

「沙綾! いるのか!」

大声で名前を呼びながら入ってきたのは、髪を乱し、朝はビシッと着こなしていたはずのスーツを汗だくにした拓海だった。

突然のことに言葉が出ない沙綾は、目を見開いたまま拓海を見つめる。

彼は沙綾がいたのにホッとした表情を見せた後、彼女が抱きついている人物に視線を移すと、低く冷たい声で「沙綾を離せ」と命じた。

「彼女は渡さない。どんな事情があるにせよ、俺は同じ男として君を……」

大きな歩幅でこちらに進み寄り、夕妃の肩を掴んで沙綾から引き剥がそうとした拓海の動きがピタリと止まった。

「え……」

違和感に気付いた拓海が咄嗟に手を引いた時、襖で仕切られた奥の和室でお昼寝をしていた湊人が目を覚まし「まーまぁ」と声を上げた。

「……あっ、湊人。起きたの?」

固まっていた沙綾が振り返ると、湊人はとことこ歩いてリビングへ出てきた。

「あっ、たくみ! おかいりー」

湊人は沙綾の膝に乗りながら拓海に笑いかけ、そのまま彼の視線は夕妃へと向けられる。