帰国直後もそう言ってそばにいてくれた男前な彼女を思い出し、沙綾にようやく笑顔が戻った。
「……こうしてると、ミソノのヒロインになった気分」
「確かに聞きようによってはプロポーズのセリフみたいだね。『お前の面倒くらい、俺がみてやるよ』みたいな?」
「うん。ツンデレなトップスター、悪くないと思う」
「あはは、冗談言えるくらいには落ち着いた? 一旦悪い方に考えると止まらなくなるんだから」
「ん、ありがとう。もう一生夕妃には頭が上がらないや」
「何言ってるの。それに、今の私があるのだって沙綾のおかげなんだからね」
「え?」
はじめて聞く話に首をかしげると、夕妃は照れくさそうに笑った。
「このでっかい身長と可愛げのない顔立ちがずっとコンプレックスだった。だけど沙綾が聖園歌劇団の存在を教えてくれて、そこで輝けるって信じて応援してくれたでしょ。あの熱烈なプッシュがなかったら、きっとミソノに入ろうって思ってなかった。だから、今私が自分を好きだって思えるのは、沙綾のおかげ」
「そんな……夕妃が努力したからでしょ」
高校生で急に進路を変え、歌もダンスも人一倍稽古をして入団し、メキメキと実力と人気をつけていった夕妃は、沙綾にとって自慢の親友だ。
「それに、あの婚活パーティーに勝手にエントリーしたの私だしね。最後まで面倒見るのが当然でしょ」
「ふふっ、そうだった。あのパーティーから始まったんだ」
「今となっては参加してよかったでしょ?」
いたずらっぽい顔をして見てくる夕妃に苦笑しながらも頷いた瞬間、ドンドンドンと扉を叩く音と衝撃に、沙綾たちは驚いて身体を竦めた。
「きゃっ! なに⁉」
古いアパートでオートロックなんてものはない。



