怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


話をじっと聞いていた夕妃はソファから下り、ラグの上で膝を抱えて俯いた沙綾の隣に座ると、無理やり顔を上げさせた。

「うじうじしない!」

パンッと音を立てて両頬を手で挟まれる。

「母親が幸せじゃないのに、どうして子供が幸せになれると思うの」
「夕妃……」
「わからないなら聞けばいいでしょ? 信頼関係なんてまずは会話が基本なんだから。合わす顔がないって逃げても、また同じことの繰り返しだよ。それでもいいの?」
「……よくない。でも拓海さんには縁談が」
「でもでも言わない!」

頬に当てられた手にぎゅっと力が込められ、ぷにゅっと潰れた口で抗議する。

「夕妃、痛い……」
「バカね。泣くほど好きなら、なんで話も聞かずに終わりにしようなんて思うの」

叩かれた頬よりも、胸が痛い。あれだけ家で泣いたというのに、また涙が滲み瞳に膜を張る。

夕妃は呆れたように笑いながら、沙綾に寄り添い抱きしめてくれた。

「だって、今さら……」
「今さらかどうかは相手が決める。沙綾は考えなくていいの。ちゃんとぶつかっておいで」
「それでもしダメだったら?」
「言ったでしょ? 沙綾の面倒くらい私が見てあげるって。砕けたら拾ってあげるから大丈夫」