もしかしたら拓海にも事情があったのではないか。
そんな風に立ち止まり冷静に考えることもしなかったのは、連絡がくるのを信じて待ち続けた揚げ句、裏切られるのが怖かったから。
傷は浅い方がいい、過去は振り返らないと色んな言い訳をしながら、自分がこれ以上傷つかないよう現実を見ないふりをしてきたのだ。
もっと彼を信じていれば、今とは違う未来があったのかもしれない。
(わからない。だけど、もう全部今さらだ……)
どれくらいの時間ぼーっとしていたのだろう。俯いてじっと涙を堪えている沙綾の耳に、部屋の奥で鳴る着信音が届いた。
リビングに戻り、キッズスペースで夢中になって絵本を見ている湊人を視界に入れながらスマホを手に取ると、画面には『城之内拓海』の文字。
三年前も、こうして連絡がくるかもしれないとずっと待っていた。
ふたりの結婚記念日になるはずだった沙綾の誕生日、鳴りもしないスマホを抱えて眠った夜の寂しさを、いまだに忘れられずにいる。
家族から縁談の話を聞いてなお、拓海が自分を選んでくれるのか、自信が持てないのだ。
(今もまだ、私は彼を信じきれていない……。ごめんなさい、拓海さん)
大きく息を吐いて電話に出た。
「はい」
『沙綾、悪い。予定より少し遅くなりそうで電話したんだ。昼は食べたか?』
「はい、今」
『そうか。今夜はゆっくり話せるよう、夕食は外で食べないか? 湊人くんが一緒でも大丈夫な店を』
「拓海さん」
彼の言葉を遮り、沙綾は意を決して切り出した。



