夜中に聞いた電話の内容と合わせてみても、それは間違いないと確信していた。
それなのに彼の弟の話では、沙綾が帰国後に連絡を断った後、心配してマンションまで様子を見に行かせるほど気にかけてくれていたらしい。
本来ならば今日の午後、拓海の話を聞いた上で真実を打ち明けようと考えていた。
三年前からずっと変わらず拓海が好きだと、湊人の父親は他の誰でもない拓海なのだと伝えようとしていたが、大地の話を聞き、その勇気がみるみるうちに萎んでいくのが自分でもわかった。
(拓海さんにとっていい話なら、それを邪魔するわけにはいかない。湊人の存在を知れば、彼はきっと責任を感じてしまう)
一緒に生活をしたこの三ヶ月間、いや、それ以前から拓海が信頼に足る人物だなんてわかりきっていた。
ドイツで一緒に暮らしていたときも、現在の湊人に接する様子を見ていても、まるで愛情があるかのように丁寧に接してくれる彼は素晴らしい夫、そして素晴らしい父親になれる。
仕事でも海外の要人に頼りにされる拓海は、これから外交官としてどんどん飛躍し、日本の外交の中枢を担っていくに違いない。
『俺は、君を裏切ったりしない』
『君にはもっと相応しい居場所があるはずだ』
退職を決めた日、その言葉とともに抱きしめてくれた拓海を信じてついていったはずなのに。
(拓海さんを信じきれず、黙って勝手に湊人を生んだ私が、彼の隣に相応しいわけがない……)
自分は捨てられたのだと思い込んだところに妊娠が発覚し、ただひたすら宿った命を守ろうと必死だった。



