拓海は国家公務員の外交官で、このルックスだ。相手に困るわけでもないだろう。
現にパーティー会場では、ほとんどの女性参加者が彼とカップリングしたくて必死だった。
「唐突なのは重々承知だ。だが俺には時間がない」
「時間がない?」
沙綾は首をかしげながら続きを促した。
「三ヶ月後には仕事でドイツへ赴任する。職業柄、レセプションに出席する機会が多いんだが、海外ではパートナー同伴が当たり前のように求められる。いまだに結婚しない俺を見かねた上司に、今日のパーティーへ勝手にエントリーされたというわけだ」
「職業って、外交官ですよね?」
「あぁ」
「……海外でパーティーに同伴できる奥さんを探しているということですか?」
「飲み込みが早くて助かる」
満足気に頷く拓海だが、沙綾は小刻みに首を横に振った。
「待って下さい。確かに私は英語とドイツ語は話せますけど、それだけでいきなり結婚する相手を決めるなんて、いくらなんでもおかしいです」
「そうか? 外交官の結婚相手に求められるのは、家柄でも容姿でも、浮気をしない誠実さでもない。外国の要人とコミュニケーションがとれる女性らしいぞ」
「らしいぞって、そんな他人事みたいに……。拓海先輩が本当に求める人と結婚をすればいいじゃないですか」
「学生じゃないんだ。先輩は勘弁してくれ」
ウイスキーを煽りながら苦笑する拓海の言葉を受け入れ、呼び方を修正してもう一度自分の考えを伝えた。



