怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


『官僚となったからにはいずれ結婚しなくてはならないと思っていたし、その相手は誰でもいいと思っていた。見合い話もうんざりするほどあったしな』

将来有望なエリート外交官の拓海に、父親は厚生労働省の事務次官。きっと持ち込まれる見合いの相手も、沙綾とはかけ離れた家柄の女性なのだろう。

多少外国語ができるからと適当に選んだ自分ではなく、元外務大臣の孫娘なら、きっと拓海の将来にも繋がる素晴らしい縁に違いない。

どちらを選ぶべきかなんて、火を見るよりも明らかだ。

(私を妻にと言ってたくらいだし、拓海さんは縁談があるのをまだ聞いてないのかな。大地さんはきっとこの話をしに今日ここに来たんだ)

なぜ大地が沙綾を『結婚の約束してたのに浮気した』と思いこんでいるのかはわからないが、もしかしたら湊人のことを拓海が話していたのかもしれない。

拓海は湊人の父親は自分ではないと思っているのだから、大地にしてみれば“帰国後すぐに別の男性との子供を授かった浮気な女”だと思われている可能性があり、ここに来てからずっと向けられている蔑むような視線にも説明がつく。

「あなたは俺の母親と同じだ。自分さえよければ平気で裏切る。そんな人が兄に相応しい訳がない。よりによって、兄のマンションに男を連れ込むなんて」
「……拓海さんのマンションに? どういう意味ですか?」

一方的に帰国させられ連絡を拒絶されたのは沙綾の方で、決して浮気などはしていない。湊人は拓海の子供で、今でも彼を愛している。