広いキッチンは壁側にIHの加熱機器、アイランド部分にシンクと調理台が備わっており、高級感あふれる御影石のカウンターと沙綾が作る素朴でシンプルな料理はかなりミスマッチだ。

それでも食事をするたびに湊人はもちろん、拓海も「美味しい」と言葉にしてくれる。

(もう少し湊人が大きくなって幼稚園に行くようになったら、料理教室に通うのもいいかもしれないな。今は湊人に合わせた食材や味付けになっているけれど、拓海さんのためにもう少しおしゃれな食事を作れるようになりたい)

無意識に今後も三人で生活している未来を思い描いている自分に気付き、沙綾は自嘲気味に小さく笑った。

(なに考えてるの、今日で契約結婚の期間は終わりだっていうのに……)

自分に言い聞かせるようにして思考を振り切ると、どんぶりに自分の分のうどんをよそい、きれいに揚がったさつまいもの天ぷらを乗せる。

次にくたくたに茹でたうどんに溶き卵を回し入れ、湊人のどんぶりによそった。

「湊人、うどんできたよー。食べよう」
「はぁい」

気持ちを切り替えるように大きな声で湊人を呼び、ふたりで手を合わせていただきますをしてから食べ始めた。

二歳の誕生日を境に、なんでも自分でやりたがるようになった湊人は、食事もひとりで食べたがる。

「あー! ちゅるんしちゃう」
「大丈夫、フォークでゆっくりすくってごらん。こうやって持って」
「まましないで! みなとしゅるの」
「ごめんごめん。じゃあ頑張って、ママ見てるから」

まだ上手くできず時間がかかるし、見ている方がもどかしく手を出したくなるが、湊人は言い出したら頑固で最後まで自分でしたがる。