七月十日、土曜日。拓海と交わした契約の期限最終日。

急遽朝から休日出勤になった拓海が昼過ぎには帰ってくるため、そのあと今後の話をする予定だ。

沙綾は三人で遊園地に出掛けた湊人の誕生日以降、そわそわと落ち着かない毎日を送っている。

あの日の帰り、沙綾は意を決して彼に問いかけた。

『どうして湊人に、そこまでよくしてくれるんですか?』

彼は湊人が自分の息子であるとは微塵も思っていない。

それなのに、まるで父親のように優しく愛情をもって接してくれる。

『たとえ俺と血が繋がっていなくても、君の子だ。愛しいに決まっている』

そう伝えてくれた拓海の瞳に嘘はなく、自分に注がれた眼差しの熱さに胸が詰まった。

『君の心の中に、俺に対する壁があるのはわかってる。だが、どれだけかかったとしても、俺はその壁を壊してみせる』

今思い返せば、まるで『隔たれた恋人たち』のセリフのような言葉だ。

アンドレアスが何年も一途にエリスを愛していたように、拓海もまた自分を愛してくれているかのような錯覚に陥る。

(そんな都合のいい話あるわけない。私は一度振られているんだから。でもあんな風に見つめられてキスされたら、誰だって勘違いしたくなる……)

拓海は、沙綾たちが彼を信頼できるのならば結婚してほしいと言っていた。