家に呼ぶ際に、思いつく限りの子供の気を引けそうなおもちゃを用意したのがよかったのか、今やすっかり打ち解けられた。

小さな子供に接する機会などなかったが、湊人といると八つ下の弟が小さい頃を思い出す。黒目がちな瞳が似ているせいだろうか。

利発で物怖じしない湊人はとても可愛く、必ず守らなければという責任感や父性のようなものが自然と芽生える。

バックミラーで後部座席を確認すると、チャイルドシートでぐっすりと眠ったまま、小さく開いた口からは一筋よだれが垂れている。

「ふっ、可愛いな」

率直な本音が思わず口から溢れた。

沙綾は疑問に感じているようだが、拓海にとっては当然だった。

血の繋がりなど関係ない。湊人は元気いっぱいでとても素直。それは沙綾が愛情を注いで育ててきた証だ。

視線を湊人から沙綾に移す。

許されるのなら、彼女と今度こそ本当に籍を入れて夫となると同時に、湊人の父親になりたい。

そのためにはまず沙綾との間にある壁を壊さなくてはならず、愛を語る前に信頼を取り戻すべきだと思った。

『私はもう湊人の母親です。恋愛も結婚もする気はありません』

もしかしたら、彼女はまだ湊人の父親であるユウキに気持ちが残っているのかもしれない。

以前電話しているのをたまたま聞いたが、とても破局を迎えた男女とは思えない、かなり親しそうで砕けた雰囲気だった。

(だとしても、今一番沙綾のそばにいるのは俺だ。必ずもう一度俺を好きにさせてみせる)

拓海は信号が青に変わるまで、助手席で眠る沙綾の横顔を眺めていた。