快諾してくれたことにホッとしたのも束の間、後日大地から聞かされたのは、沙綾が他の男と親しそうにマンションに入っていったという信じがたい事実だった。
『兄貴の嫁、浮気してる。相手はすげぇ美形って感じの若いイケメンだった』
「……まさか。人違いじゃないか?」
『いや、沙綾って呼ばれてた。俺だって兄貴の選んだ人が浮気するなんて思いたくなかったから、何回か見に行ったんだ。間違いないと思う』
(沙綾が別の男と……?)
『兄貴のマンションの前で“君への愛は永遠だー”みたいな芝居がかった甘いセリフで口説かれてる感じだったし、相手の奴を“ユウキ”って呼んでたのも聞こえた』
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
契約結婚から始まった夫婦とはいえ、レセプションの夜を境にふたりの関係はガラッと変わった。
拓海についてドイツに渡ったことを後悔していないと言い切り、好きだと涙ながらに伝えてくれた可愛い沙綾。
あれは嘘だったと?
いや、彼女はそんな女ではない。あの時は本気で自分を想ってくれていたのだろう。
だとすれば帰国してからの数ヶ月で、本当に愛想を尽かされてしまったのだ。
考えてみれば、詳しい説明もなく帰国させただけでなく、沙綾の告白に対してなにも応えていない。
言葉にできない想いをぶつけるかのごとく貪るように抱いた夜を思い出し、拓海は頭を抱えた。



